定員超過大学に対する補助金不交付・減額措置基準の「厳格化」に関する見解

【見解】

定員超過大学に対する補助金不交付・減額措置基準の「厳格化」に関する見解


2016年2月4日
日本私立大学教職員組合連合
中央執行委員会


 安倍政権は、「地方創生」策の一環として、大都市圏(特に東京圏)への学生の集中を是正することを閣議決定し、その手段として文科省が、入学定員超過の私立大学に対する補助金の不交付・減額措置の強化を実施することを決定しました。2015年7月10日には文科省高等教育局私学部長、日本私立学校振興・共済事業団理事長が連名で「平成28年度以降の定員管理に係る私立大学等経常費補助金の取扱について(通知)」を発出しています。
 現行の経常費補助金が全額不交付となる定員超過率(収容定員8000人以上1.2倍、8000人未満1.3倍)を2016(平成28)年度から段階的に引き下げ、2018(平成30)年度には、
・収容定員8,000人以上の私立大学では、1.10倍以上で全額不交付
・収容定員4,000人以上8,000人未満の私立大学では、1.20倍以上で全額不交付
とすることを決定しています。
さらに2019(平成31)年度には、収容定員の規模にかかわらず、入学定員充足率が1.0倍を超える場合、超過した入学者数に応じた学生経費相当額を減額する措置を導入する方針を示しています。
 政府・文科省は、三大都市圏に集中する大規模・中規模大学の定員超過を抑制し、地方私大の活性化を図ることを政策目的としていますが、これらの措置では大都市圏への学生集中を抑制するという政策目的を果たすことにはつながりません。また文科省が主張している「教員一人あたりの学生数などの教育研究条件の維持・向上」も図れないどころか、学費値上げや教育研究条件の悪化を誘発しかねません。その理由は次のとおりです。

(1)地方私立大学の活性化をはばんでいるのは、貧困な補助金および学生支援策
地方大学に定員割れが集中している大きな原因は、大都市圏への人口流出をもたらす地方の所得水準の低さや産業構造の問題および大学進学率の低さにあります。地元大学に進学する若者を増やすためには、都市圏私大の入学者数を制限するのではなく、経済的理由で大学進学を諦める若者を減らすことです。
地方私立大学の活性化を本気で図ろうとするならば、少なくとも、経済的な理由で大学進学を断念せざるを得ない事態が生じないように、給付奨学金制度や就学支援金制度を創設するなど、学費負担軽減のための抜本的な対策を講じ、地方大学の進学率を引き上げる施策こそ求められます。
また定員割れ大学に対する補助金不交付措置は、年々厳格になりました。在籍している学生に対しても不交付となる措置は、「地方創生」の政策目的に反するばかりか、学生の教育を受ける権利の侵害です。過疎地の初等・中等教育に対する政府の対応に比べて、なんと冷遇されていることでしょう。地方私大の淘汰促進政策となっている定員割れ大学に対する補助金の減額措置・全額不交付措置を中止し、在籍する学生数に見合う経常費補助の確保、さらに増額配分こそ、実施しなければなりません。
文科省は、2015年度予算で経常費補助の特別補助に「経営強化集中支援」予算45億円を新規計上しましたが、額もわずかで、毎年のように内容が変動する場当たり的な予算措置では、安定的に充実を図ることなどできません。
 地方私立大学の活性化をはばんでいる原因は、淘汰をすすめる補助金政策および貧困な学生支援策という現行政策にこそあります。
  
(2)定員超過率の「厳格化」措置と私学助成
そもそも定員超過率の「厳格化」、補助金不交付措置は、一片の通知文書で決定されてよいような問題ではありません。かつて私立大学がマスプロで、しかも国立大学に比して高い学費であることは、私学助成制度の整備によって解決されなければならない課題でした。定員超過の状態をどのように解消して、しかも学費を上げずにすむか、そのために経常費補助を計画的に引き上げるということが経常費補助制度の目的でした。
政策として経常費補助が開始されたのは1970年で、補助金不交付となる定員超過率(以下、定員超過率)が定められたのは1973年でした。当時は7.0倍までの定員超過が認められていました。私立学校振興助成法が施行されたのが1975年で、このときの定員超過率は5.0倍でした。その後1977年から1981年までに3倍から2.5倍にさがります。この間、経常費補助率(以下、補助率)は1981年までに29.5%にまで上昇しました。7倍から2.5倍への驚異的な低下は、経常費補助制度によって支えられていたのです。
その後、臨調行革と受益者負担主義への転換により、補助率は低下を続けます。定員超過率は84年まで2.5倍に据え置かれますが、その後、補助率が低下していくにもかかわらず、定員超過率は下がり続け、96年までに1.5倍にまで下がります。しかしその後下げ幅は鈍化して、2011年1.3倍になるまでに15年を要しています【右表】。
補助率の低下と定員超過率の「厳格化」の併行を可能にしたのは、各大学での学費値上げと人件費などの抑制です。この結果、学費値上げは、貧困な奨学金制度とあいまって、アルバイトづけの学生生活を常態化させ、人件費抑制はアウトソーシングや非正規雇用、任期付教員という安価な教職員への代替をもたらすことになりました。
今回の大都市圏の中規模・大規模私大の定員超過率の「厳格化」措置の背景には、18歳人口が減少する中で大規模私大などが進めてきた定員純増をともなう規模拡大に対する批判があるとみることができるかもしれません。しかしながら、10.3%でしかない補助率のもとで、定員超過率を大規模大学の場合、現行の1.3倍から、わずか3年間で1.1倍にまで引き下げるという政策は、あまりにも急激なダウンサイジングであり、教育・研究条件の改善につながる保証はありません。

(3)定員超過率の厳格化を教育・研究条件の改善につなげることができる保証はない
入学する学生数が減少すれば、一見すると学生一人あたり経常経費、学生数と教員数の比率、学生一人あたり教育施設費は、高くなります。しかしながらこれを実現するためには、財源が必要です。
経常費補助金が全額不交付となる定員超過率の引き下げは、中規模・大規模大学の学納金収入の大幅な減少をもたらします。例えば、収容定員8,000人規模の大学で、現行の補助金不交付となる入学定員超過率1.3倍近くの学生を入学させている大学の学納金収入が130億円であるとすると、この大学が補助金不交付となることを回避するために入学定員超過率を1.1倍未満に引き下げれば、学納金収入は20億円以上、15%以上も減少することになります。同じく入学者数を定員の1.0倍に抑制すれば、学納金収入は約30億円、23%以上も減少します。私大経常費補助の長期にわたる減額により、私立大学の学納金収入への依存度は非常に高まっており、また教育・研究の質向上のために経常費支出が増加している状況において、これほどの収入減は私立大学にとって死活問題です。政府はこの大幅な収入減を何に転嫁しろというのでしょうか。
学納金に転嫁すれば、学費の大幅値上げを引き起こすことになります。学生数の減少にともなって経常経費を減らせば、学生一人あたり経常経費は増えません。教員の新規採用を控えれば、結局、学生数と教員数の比率も変わりません。また定員超過率に見合う学生数を定員化すれば、実態はかわりません。
定員超過率の「厳格化」を教育・研究条件の改善につなげることのできる大学がないわけではありません。それは学納金の減少を上回る帰属収支差額をあげてきた、これまで教育・研究を軽視して「溜め込み」をすすめてきた大学です。こうした大学が溜め込んできた原資を教育研究経費に使うならば、学生一人あたり指標に示される教育・研究条件を改善できるでしょうが、「溜め込み体質」を変えるという転換が必要になります。
定員を厳格に守ることで教育・研究条件の向上を実現するための財源を含めた方策が、具体的に示されなければ「絵にかいた餅」にすぎません。

(4)すべての在籍学生に補助金を不交付にすることは過度に懲罰的
定員超過に対する補助金不交付措置は、定員割れに対する補助金不交付措置と同様に、実際に在籍している学生の補助金までも不交付とする懲罰的なものです。基本的な考え方として、学部の入学定員が1,000人の大規模大学の場合、現行では定員超過入学者数が299人までは補助金が交付されるのに対し、2018(平成30)年度からは100人以上の定員超過で補助金が不交付となります。いくつか例外条件が付されてはいるものの、1,000人以上の学生が在籍し、教育・研究が現に行われているにもかかわらず、基準をたった1人でも超過すれば学部全体の補助金が全額不交付となることによって、それが大学側の入学人数確保策の失敗であったとしても、しわよせを受けるのは学生です。

以上のとおり、今般の定員超過に対する「厳格化」措置は、「地方創生」という政策目標を実現するものではありません。また多大な財源が確保されなければ、教育・研究条件の低下につながりかねない危険性をもっています。このように深刻な影響が見込まれるにもかかわらず、今回の政策決定プロセスは、国会での審議もせず、私立大学関係者の意見も聴かず、中教審での検討も行わないまま、安倍内閣が閣議決定したことを行政が実行に移している点でも重大な問題です。日本私大教連はこれら一連の措置に対して抗議するとともに、撤回することを強く求めます。
 定員規模の急激なダウンサイジングを強いる今回の措置に対して、理事会には、むしろ教育・研究条件の改善につなげるために長期的で冷静な対応が求められています。定員超過率の「厳格化」により学納金収入が減少し続ける3~7年間を過ぎて、8年後から10年後ほどのスパンでみれば、定員枠での学納金収入に見合う経常経費によって採算を確保することは可能です。理事会は、使途の決まっていない金融資産を使うなどして、教育・研究条件が低下しないよう目を配る責任があります。安易な労働条件の引き下げによって、この危機を乗り越えるようとすることには、断固、反対します。


以上

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